Linked Open Data チャレンジ Japan 2012 開催趣旨

2011年3月に東北地方を襲った大震災直後の混乱の中では、Webが社会的なインフラとして大きな力を発揮しました。ネット上で多くの人々が情報を出し合い、つなぎ合わせることで、価値あるサービスが即座に立ち上がるとともに、そこからネットを介した支援活動の輪が広がり、一種の社会現象となりました。このように、多くの人々がオープンにしたデータ(Open Data)を、皆でつなげて(Linkして)大きな価値を生み出していく運動は「Linking Open Data」と呼ばれ、世界中のあらゆる分野で急速に広がっています。この活動を通して、私たちの創造力と、つながろうとする力とが様々なサービスを生みだし、私たちのライフスタイルを大きく進化させていくことでしょう。

「Linked Open Data チャレンジ Japan 2012」では、これまで見られなかった新たなデータづくり、データを共有する仕掛けや、データの活用アイデアなどを「作品」として募集します。作品の分野は問いません。異なる分野のデータをマッシュアップした作品や、様々な分野でLinking Open Data運動を進めている方々の活動も作品として募集します。また、企業がビジネスとして推進している作品、個人や学生の皆さまからの発想豊かな作品など、幅広い応募を期待します。応募して頂いた作品をコンテスト形式で評価し合うことで、これからの日本の新しい未来を創造していきましょう。

The Linking Open Data cloud diagram

(1)背景

Webが私たちの生活や社会に浸透するにつれて、社会や産業の基盤となりうるデータは、人々や組織が単独で保有するよりも、互いに共有化するほうが、所有者にとっても社会にとってもデータの価値が高まるとの考え方が広がってきています。今年3月に東北地方を襲った大震災直後の混乱の中では、Webが社会的なインフラとして大きな力を発揮しました。ネット上で多くの人々が情報を出し合い、共有することによって、支援活動の輪が広がりました。

Webの仕組みはコンピュータとネットワークによって実現されています。しかしながら、これまでのWebは、人々が関与することが前提になっていて、コンピュータによる情報の利用がうまく進んでいませんでした。例えば、HTMLで記述された情報は、人々が読んで理解できますが、コンピュータが処理するにはひと手間かける必要がありました。LODは、Webの仕組みを利用して、コンピュータが処理しやすい形式で情報を共有する、新しい方法です。情報をLODの形式で発信することで、多数の人々へ広くかつ迅速に伝達することが可能となります。Webを発明したTim Berners-Lee氏が提唱したことが発端となって、ネット上の人々がデータを出し合い、皆でつなげて(Linkして)いこうという、Linking Open Data運動が世界中で広がっています。この運動を通して得られたデータは、社会知や集合知として大きな価値を生み出し、これを利用した新たなサービスが立ち上がり始めています。

(2)Linked Open Dataに関する世界の取り組み

Linking Open Data運動のもと、欧米を中心に、政府や自治体が所有する公的データ、地理情報データ、生命科学等の科学データ、メディアコンテンツなどの情報を人々がオープンにし、皆でつなげて、社会全体で価値を共有する取り組みが広がるとともに、こうしたオープンデータを活用した公共サービスやビジネスへの適用が活発に進められています。また、オープンデータを活用したアイデアやアプリケーションを競うコンテストが数多く開催されており、データ共有化の促進とイノベーション創出への期待が寄せられています。

日本においても、サイエンス分野と地域情報を中心に、取り組みが既に始まっています。CiNiiが、学術文献を中心とする書誌情報をLODの形式で開示している他、理研サイネスが生命科学における情報を、横浜LODプロジェクトが横浜の地域情報を提供しています。他の分野においても、データをオープンにし、分野を横断してつなげようとする活動が新たなサービスを創出し、大きな価値を生みだすことが期待されています。

(3)産業界の動向

産業界においても、人々が読んで理解できる従来型のWebから、コンピュータにとっても情報を処理しやすい新しいWebへと移行しつつあります。その上で情報を共有したり活用したりすることが、新たなビジネスの創出につながると期待して、欧米企業はデータを中心としたサービスに取り組み始めています。

NewYork TimesやBBCはそれぞれ、人名や見出し語などのメタデータをLODとして公開し、LODをハブとしてWebコンテンツを連携するプラットフォームづくりを進めています。こうしたメタデータは検索の高度化にも有用であるとして、Googleは、2010年7月に、オープンな情報データベースFreebaseを運営するMetaweb Technologiesを買収しました。2012年6月には、Microsoft、Yahoo!と共同で、Web用メタデータの共通化に関するサイト(schema.org)を立ち上げています。また、人気クイズ番組ジョパディ!でチャンピオンを破ったスーパーコンピュータWatsonでは、LODが事前知識の一部として利用され、テキスト情報からの膨大な知識の獲得に寄与しました。IBMは、Watsonを医療での診断支援に応用するなど、知識データを活用した新しいビジネスを始めようとしています。

一方、統計情報や専門的な情報などを必要とするユーザが集まる場所を提供する「データマーケットプレイス」が米国を中心に注目されています。価値あるデータを商品とすることでバリューチェーンを産み出し、データの提供者と利用者とが win-win の関係を築くなど、新しいビジネスモデルへ高い期待が寄せられています。Google、Microsoft などの大手IT企業が、公的情報を中心としたマーケットプレイスの構築を進めている他、SemTechやStrataなどのデータ専門のビジネスカンファレンスが開催されるなど、市場動向に関心が寄せられています。

(4)本チャレンジの目的

社会や産業の基盤となりうるデータを共有化し、つなぎあわせることが、データの価値が高め、社会や経済に寄与するとの考え方が世界的に広がっています。本チャレンジの目的は、専門各分野におけるLinking Open Data運動を促進して、データをオープン化し、分野を横断して情報をつなげる(Linkする)とともに、その相乗効果として、価値のある新しい技術・サービスを創出することにあります。

「Linked Open Data チャレンジ Japan 2012」は、様々な分野でLODの仕組みづくりやデータづくりにチャレンジされている方々による活動の発表の場を提供します。データ、アイデア、アプリの各部門に作品を応募していただき、コンテスト形式で評価し合うことで、これからの日本の新しい未来を皆様と一緒に創造していきます。また、本目的の実現には、WebやIT分野の技術者だけでなく、専門各分野から多くの方に参加して頂き、議論を深めることが欠かせません。本チャレンジから、LODの技術情報を発信するとともに、データやアイデアに関する情報交換や共有を行うコミュニティづくりを目指します。

(5)Linked Open Dataがもたらす社会

本チャレンジの開催を通して、技術情報とアイデア活用に関する情報交換の場を提供することで、分野を横断したデータの共有を促進するとともに、これまでのWeb上では得られたかったデータの共有が可能となります。また、データを互いにつなげることが、共有化した情報・知識にもとづく社会基盤の形成を前進させ、そこから新しい発想のサービスやアプリケーションを創出します。その結果として、需要の喚起、効率的な資源配分などを実現し、社会・経済へ寄与するものと期待しています。